読書感想画を描こう

美術の授業について

夏休みの宿題の定番、読書感想画。
今回は部長なりの読書感想画の描き方のコツを紹介していこう。

読書感想画とは

コンクールは2つある

まず、読書感想画コンクールは「読書感想画中央コンクール」と「西日本読書感想画コンクール」の2つがある。学校に提出した作品は地域によっていずれかのコンクールへ送られる。審査の傾向に差は見られないのでどちらでも特に気にすることはない。ただ、全国統一されているわけではないので、もし最優秀賞をとっても東日本か西日本どまりであり、全国1位は取れない。強いて言うなら、中央コンクールの方が西日本コンクールよりも参加している県も出品数も多いのでその分、入賞争いは厳しいのかな?
以下はそれぞれのホームページより引用

読書感想画中央コンクール

「読書感想画コンクール」は、「読書の感動を絵画表現することにより、児童・生徒の読書力、表現力を養い、読書の活動を振興すること」を目的に1983年、近畿学校図書館連絡協議会と毎日新聞社との共催で近畿地域から始まりました。86年、関東地区に拡大され、独自の指定図書の選定を開始。これまで後援だった全国学校図書館協議会が共催することになりました。89年に、関東・北信越の一部と、東海、中国(山口県を除く)、四国地域に拡大し、「読書感想画中央コンクール」として一本化されました。第25回から北海道が加わり、現在38都道府県で実施しています。

https://www.dokusyokansoubun.jp/kansouga/

西日本読書感想画コンクール

西日本読書感想画コンクールは、九州・山口各県学校図書館協議会と西日本新聞社が、地域の小・中学生、高校生を対象に開催している絵画コンクールです。
このコンクールは1957(昭和32)年から続いており、全国でも最長の歴史と、地方での開催としては最大の規模(2020年度の応募総数は約35万5千作品)を誇り、各所から高い評価をいただいております。
読書感想画は、子どもたちが本を読んで感じたこと、考えたこと、心に浮かんだイメージなどを、自分の心の中で組み立て、絵というかたちで表現するものです。
読書感想画を通じて、読書への意欲が高まり、豊かな感性や想像力を育む児童・生徒が一人でも増えることを願って、本コンクールを実施しています。

https://specials.nishinippon.co.jp/cp/kansoga/

いずれのコンクールも目的は同じ

いずれのコンクールも目的はだいたい同じ「本を読んで感じたことを絵にすることで、表現力や感性を育み、読書活動の振興をすること」である。
ここでのポイントはこのコンクールの目的が「感想画がきっかけでもっと読書に興味を持ってほしい」ということであり、「素晴らしい絵を描くこと」でも「本の挿絵を忠実に表現すること」でもないということ。

ここを履き違えると、作品がコンクールの目的から外れてしまう。この目的を押さえていれば、いかに「ただ挿絵を真似た絵」や読書に繋がらない「マンガを描き直したような絵」が目的から外れているか分かるだろう。

描き方のコツ

読書後の感想を文章でまとめる

いきなり描き始めるのではなく、まずは感想を文章にまとめるとよい。あらすじだけでなく、読後に感じた印象、どこに感動し、それはなぜか、まとめてみる。そしてその文章を絵にするイメージだ。そうすることで、単に一場面の忠実な描写ではなく、作品全体の世界観を表現することになる。
よく見られる表現方法としては、登場人物や重要なアイテムを1つの画面にまとめたり、いくつかの場面を区切って構成したりする方法がある。もちろんそれ以外の表現方法でも構わない。
とにかく作品の世界観をまとめることを意識してみよう。

アイディアをまとめる

なんとなくアイディアがまとまったら、スケッチブックなどに描いてみよう。
同じアイディアでもいくつかパターンを出してみよう。特に構図の工夫をしてみよう。一つ一つのアイディアは簡単なラフスケッチでいいので、視点を俯瞰にしたり、下から見上げたり、描いたものをコピーして切り抜いて配置を変えたり、いろいろ試してほしい。
画材も水彩画に限らないので、アイディアを一番表現出来そうな画材も考えてみよう。アクリル絵の具や色鉛筆、ポスカ、墨汁、コラージュもある。
コレというものが決まったらいよいよ画用紙に描いていく。

下絵を描く

いよいよ画用紙に書いていくが、下絵はできれば柔らかい鉛筆を使い、できるだけ優しく描いていくようにしよう。強い線をハッキリ描くと消えずに残ってしまう。また、失敗したからといって消しゴムでゴシゴシと消したりすると画用紙の表面がボロボロになる。
水彩画の場合、下絵の線が透けて見えるし、色を塗った後に下絵を消しゴムで消すと、かえって汚くなることがある。下絵の線は優しく、薄く描き、むしろ下絵を見せていくつもりで描こう。

色を塗る

先にも述べたが、画材の制限は少ないので、水彩画に限らない。下絵をもとにそれを生かせる画材を選ぼう。アクリル絵の具や色鉛筆、ポスカ、墨汁、それらを切り張りするコラージュなど、割と何でもよい。ただし、触ると落ちるパステルはフィキサチーフで定着させる必要がある。

審査員経験から言えること

ここまでは優等生的アドバイス。ここからは美術部の部員達にむけて、審査員をした経験から、少し違った切り口のアドバイスをしていこう。

審査の方法

まず審査は地区、県、本選の3段階で行われる。地区、県はいずれも作品を提出する学校の美術教師達で審査をする。本選は様々な分野から選ばれた審査員が務める。
地区、県はそれぞれ課題図書から何点、自由図書から何点を上に提出するか選ぶ。何点を選ぶのかは予め決まっているので、本選にはある程度厳選された作品が集まることになる。
地区の審査では美術教師の他に図書館司書が何名か立ち会う。司書はあくまでアドバイザーで、審査の中まで干渉したりはしない。
では美術教師達はどの様に審査をするかと言うと、ほぼ直感で決める。課題図書も、ましてや自由図書の本など読んでいない。正直、ほとんど本の知識なしに作品を審査し選んでいく。したがって作品に描かれている登場人物の容姿やアイテムなどのディティールは知らないし、そもそも作品に描かれている場面があるのかも知らないで審査している。
それでも各審査員が選ぶ作品は大体同じ作品になる。それは絵力がある描き込まれた作品だ。時間をかけて仕上げた作品は密度が違う。一目瞭然なのだ。そこには読んだ本のストーリーなど関係ない。一応作者の説明文も読むけれど、選ばれた後に確認する程度のことだ。
あまりにも出来すぎた構図の場合、画力と構成力に差がある場合には、図書館司書に挿絵の可能性を確認してもらう。逆に図書館司書から、この作品は表紙の絵とか挿絵を模写していると指摘をしてもらうこともある。極端な話、本の知識がない美術教師と絵の知識のない図書館司書が助け合って審査している

どんな作品が選ばれるか

地区の段階から両知識に優れた優秀な審査員を用意する余裕はないのだろう。この審査方法の是非は置いておいて、そのような審査方法になっているので、県の審査を突破するまでなら、描き込まれた、絵力のある作品であればいいということになる。もちろん挿絵をそのまま模写したり、過去の受賞作品をパクったりするとマズイとは思うが、本の内容はともかく、絵として成り立っていればいいのだ。美術教師と図書館司書のスキマを狙うような作戦だが、実際にそんな作品が県まで上がっている。
一度、3色しか使っていないベタ塗りのポスターのような作品を推したことがある。絵画的ではなかったが構図が面白いと思ったのだ。だが、他の審査員に却下されてしまった。複数名の審査員から推されるには絵画的な絵力のある作品でないとダメらしい。また、この作品を上げると、上の審査員達にどう思われるのかというメンツもあるのだろう。
本選では優れた審査員の方々がきっと絵と本の内容の両面から審査をされているのだろう。

本選の審査とは

だが、ある年の最優秀を受賞した作品は、読んだ本が「言葉辞典」だったことがある。その時代の世相を反映した言葉を解説した辞典のような本だ。当然、登場人物も心理描写も、ストーリーすら無い。しかしその作品はそこから社会問題を可視化して1つの世界観にまとめていて、圧倒的な存在感があった。本選の審査も「どんな本を読んだか」ではなく「どんな絵を描いたか」が最重要なのだということがここから伺える。

いい絵を描けばいい

つまり極論、本から想起された作品であれば何でもよくて、とにかくいい絵を描けばいいということだ。なので部員の皆さんは、まず自信のあるモチーフを決めよう。中世の世界観が得意とか、宇宙なら描けるとか、ネコなら写真のように描けるとか、自信があるモチーフなら何でもいい。そこから、それに合う本を選べばよい。そして、めちゃめちゃ描き込む。見るものを惹きつける絵力を持った作品を描く。本との関連性は後からどうにでもなる。いい絵を描け。

結論:読書感想画は絵力のあるいい絵を描けば大体オッケー。多分。

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